都労委が、年休取得時の診断書提出要求に関しては、義務的団体交渉事項であるため、JR東海の団体交渉拒否は不当労働行為と判断

JR東海のある従業員が、入院手術のために年次有給休暇を取得しようとしたところ、上司から、診断書の提出を求められたため、労働組合が年次有給休暇取得に理由の明示及び診断書の提出は必要ないと抗議をし、団体交渉の申し入れを行いました。JR東海は、労働協約上の団体交渉開催事項に当たらないとして、団体交渉の申し入れに応じませんでした。

東京都労働委員会は、令和元年9月4日、JR東海の対応について、年次有給休暇の取得時の診断書提出に関する就業規則の解釈及び運用は義務的団体交渉事項であるため、JR東海が団体交渉に応じなかったことは正当な理由のない団体交渉拒否であり、不当労働行為に該当すると判断しました。

「労働組合」、「団体交渉」、「義務的団体交渉事項」、「不当労働行為」と、あまり聞きなれない言葉が多いかと思いますが、労働組合対応は、いかなる使用者の下でも生じ得る可能性がありますので、基本的な事項はしっかりと抑えていただければと思います。

そもそも労働組合とは、労働者が主体となって労働条件の維持改善等を図ることを目的として組織する団体等をいいます(労働組合法2条)。労働組合と聞くと、「当社には労働組合はないので、その心配はない」と発言される使用者の方もいます。しかしながら、いわゆる合同労組・ユニオンといわれる個人加盟の労働組合も存在し、労務トラブルが生じた場合に、労働者が、法律事務所や労基署ではなく、労働組合に駆け込むケースもありますので、決して、他人事ではありません。

労働組合法においては、いわゆる労働三権(団結権・団体交渉権・団体行動権)を具体的に保障し、労働組合活動の自由に対する使用者からの侵害を防止するために、使用者が行ってはならない不当労働行為の類型が明記されています。不当労働行為の類型としては、①不利益取扱い、②団体交渉拒否、③支配介入があり(労働組合法7条)、不当労働行為に該当する場合には、労働者側は行政上の救済を求めることができます(※1)。例えば、労働組合に加入したことを理由に配転を命じる場合や、労働組合員であることを理由に行う退職勧奨は、①不利益取扱い(又は③支配介入)として、不当労働行為と判断されます。

今回の事例で問題になったのは、②団体交渉拒否です。不当労働行為と判断されるのは、義務的団体交渉事項、すなわち労働者の労働条件その他の待遇や労使関係の運営に関する事項(ただし、使用者に処分可能なものに限られる。)に関する団体交渉に限られます。注意が必要なのは、会社の経営に関する事項であったとしても、これが労働者の労働条件に影響を与え得るものについては、義務的団体交渉事項に含まれるということです。どこから義務的団体交渉事項に該当するのかという判断は難しいものもあるため、団体交渉の申し入れを受けた場合には、専門家に対応を相談されることをお勧めします。

東京都労働委員会は、上記の通りの判断をしていますが、年次有給休暇の取得方法は、「労働条件その他の待遇」といえますので、この判断は適切なものと考えます。

今回の事例では、使用者は、単に団体交渉の申し入れに応じなかっただけではなく、会社の苦情処理制度における苦情処理会議の開催を提案していたという事情がありましたが、団体交渉自体を拒否していることに変わりはなく、このような事情を踏まえても、不当労働行為と判断されたようです。苦情処理会議で必要な意見聴取を行えば、団体交渉に応じなくても良いという結論にはなりませんので、注意が必要です。

なお、そもそも年次有給休暇の取得に関して、その理由を聞いたり、診断書の提出を求めること自体が可能かという点も問題になりますが、この点は、別の記事でご説明させていただければと思います。

 

※1 不当労働に対する行政上の救済措置としては、労働委員会に対する不当労働行為の申立てが用意されており、労働委員会で不当労働行為と判断された場合には、救済命令が出されます。救済命令においては、使用者が不当労働行為を行ったことを認め、今後は同様の行為を行わない旨の文書を一定期間、社内等に掲示すること(いわゆる、ポストノーティス)が命じられることもあります。なお、不当労働行為救済申立ての流れは、東京都労働委員会のHPをご参照ください(http://www.toroui.metro.tokyo.jp/futoususumekata.html)。

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