Q&A~出張先までの移動中の事故は、「通勤災害」か「業務災害」か?~

Q. 当社の従業員が、出張先まで自動車で移動していたところ、途中で事故に遭い、全治3ヶ月の怪我を負いました。この従業員から、労災申請の希望が出されたのですが、このような出張先への移動中の負傷については、業務災害と通勤災害のいずれとして労災申請をしたら良いのでしょうか。

A. 出張先への移動中の負傷については、「業務災害」としての労災申請をすることになります。

【解説】
労働災害には、業務災害と通勤災害の2種類があります。
①「業務災害」とは、業務上の事由による労働者の負傷、疾病、傷害、死亡等の災害を、②「通勤災害」とは、通勤による労働者の負傷、疾病、傷害、死亡等の災害をいい、それぞれ労災保険法に基づいて保険給付が行われます。
例えば、工場内で機具の使い方を誤って怪我をしてしまうような場合や、長時間労働が原因で脳出血等を発症して亡くなってしまうような場合が、①「業務災害」です。
他方、自動車で通勤中に交通事故に遭って怪我をしてしまうような場合が、②「通勤災害」です。
一般的に「通勤」という言葉は、自宅から就業先までの移動のみを指しますが、労災保険法上の「通勤」とは、就業に関する移動であって、次のいずれかに該当し、かつ、「業務の性質を有するものを除く」とされています(労災保険法7条2項)。
㋐ 住居と就業の場所との間の往復
㋑ 就業の場所から他の就業の場所への移動
㋒ ㋐に先行又は後続する住居間の移動

出張についても、上記㋑に該当するようにも思えます。
しかしながら、出張とは、使用者の命令により、出張先まで赴いた上で、出張先で用務を果たし、出張先から戻るまでの一連の過程を含むものであるため、出張中は全体として事業主の支配下にあり、出張先までの移動も含めて業務行為と解されます。
上記の通り、労災保険法上の「通勤」には、「業務の性質を有するものを除く」とされているため、出張先までの移動は、「通勤」には当たりません。
したがって、ご質問のケースでは、通勤災害ではなく、業務災害として扱うことになります。

なお、出張が泊まりの場合、出張先での業務が終わった後は、宿泊施設にて睡眠をとることになりますが、このような場合に宿泊施設が火事になり、これにより怪我をしたような場合でも、「業務災害」に該当すると考えられています。
この結論に違和感を覚える方もいらっしゃるかと思いますが、積極的な私的行為、恣意行為等でない限りは、出張に通常伴うものとして「業務災害」と認めるべきとされています(他方、街で飲み歩いて階段から落ちて怪我をしたような場合は私的行為によって自ら招いた災害として業務災害とは認められない、と考えられています。)。

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