Q&A~偽装請負の判断基準・労働者性の判断基準はどのようなものか?(37号告示と昭和60年報告との関係性)~

Q. 当社は、お菓子の製造メーカーの会社から業務委託を受けて、そのメーカーの所有する工場内において、当社の従業員にお菓子の製造を行わせています。最近、ニュースで偽装請負というワードを耳にしたのですが、どのような場合に偽装請負と判断されるのか、区別基準などはあるのでしょうか。

A. 厚労省作成の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和 61 年労働省告示第 37 号)が出されており、これに従って請負か労働者派遣かを区別することになります。また、個別事例ごとの判断については、厚労省作成の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集」が参考になります。

【解説】
1 前提
偽装請負とは、会社間の契約が形式上は請負契約であるものの、その実態は、注文事業主が請負事業主の雇用する労働者を直接指揮命令しており、その実態は労働者派遣である場合をいいます。
請負と労働者派遣を図にすると以下の通りになるのですが、パッと見た印象としては同じような契約関係と思われる方が多いのではないでしょうか。

請負も労働者派遣も、①会社間の契約関係、②派遣元又は請負事業主と労働者との雇用契約関係、があることは同じですが、③指揮命令関係が、(ⅰ)請負事業主と労働者との間にあるのか(この場合は、請負)、(ⅱ)派遣先と労働者との間にあるのか(この場合は、労働者派遣)、が違います。そのため、両者の区別については、指揮命令関係がどこにあるかで区別することができる、といえます。このようにとらえると、両者の区別は容易にも思えますが、実際は、この指揮命令関係がどこに生じているのか、注文事業主として請負事業主の労働者にどこまで指示ができるのかという点を巡って、難しい問題があります。注文事業主としては、当然に請負契約だと思っていても、意識して区別をしておかないと、偽装請負と判断されてしまう可能性があります(なお、偽装請負を図にすると、以下の通りです。)。

2 請負と労働者派遣について
⑴請負と労働者派遣の区別基準
請負と労働者派遣の区別基準については、厚労省より、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和 61 年労働省告示第 37 号)(いわゆる、「37号告示」)が出されております(https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/h241218-01.pdf)。
37号告示によれば、請負と判断されるためには、請負事業主において、①自己の雇用する労働者の労働力を直接利用していること、②請け負った業務を自己の業務として独立して処理すること、が必要であるとされています。この①②の判断の具体的内容は、以下の通りです。

①次のいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。
1)業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
ⅰ 労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
ⅱ 労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。
2)労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
ⅰ 労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
ⅱ 労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
3)次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。
ⅰ 労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。
ⅱ 労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。
②次のいずれにも該当することにより請負契約により請け負つた業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。
1)業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。
2)業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。
3)次のいずれかに該当するものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。
ⅰ 自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。
ⅱ 自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。

このように、37号告示は、請負と判断されるための条件を事細かに設定しており、このいずれをも満たさないと請負と判断してもらえませんので(言い換えると、偽装請負と判断されてしまいますので)、そのハードルは極めて高いといえます。

 

⑵問題になりやすい例
偽装請負が問題になりやすいのは、注文事業主の所有する工場にて請負事業主の労働者が業務に従事するようなケースの場合です。
このようなケースの場合、当該工場内に注文事業主の雇用する現場責任者が、請負事業主の雇用する労働者に対して、業務遂行方法についての指揮命令をしてしることがありますが、これは、上記の「業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。」を満たさす、偽装請負と判断されてしまう可能性があります。
また、当該工場や工場内の設備の使用について、当事者間で特段の契約を結んでおらず、無償での使用を認めていることがありますが、これは、上記の「自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。」を満たさず、偽装請負と判断されてしまう可能性があります。

37号告示は、抽象的な表現がなされており、実際の事例においてどのような点に注意すべきかということのイメージがつきづらい面があるかと思います。請負と労働者派遣との区別基準について、具体的な内容を知りたいということであれば、厚労省作成の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集」(https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/gigi_outou01.html)が参考になりますので、ご確認下さい。

3 労働者性の判断基準
請負と労働者派遣の区別基準とは別に、労働者性の判断基準、があります。
例えば、一人親方、運転士、芸能人等との間で業務委託契約を締結しているものの、これらの者に対して注文事業主が直接指揮命令をしており、その実質が雇用契約であると判断されることがあります。
このような場合に用いられる労働者性の判断基準については、厚労省作成の「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」(以下、「昭和60年報告」といいます。)が出されております(https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/library/osaka-roudoukyoku/H23/23kantoku/roudousyasei.pdf)。
昭和60年報告における労働者性の判断基準は、以下の通りです。

1 「使用従属性」に関する判断基準
(1) 「指揮監督下の労働」に関する判断基準
① 仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
② 業務遂行上の指揮監督の有無
③ 拘束性の有無
④ 代替性の有無
(2) 報酬の労務対償性に関する判断基準(報酬額、計算方法等)
2 「労働者性」の判断を補強する要素
(1) 事業者性の有無
(2) 専属性の程度
(3) その他

なお、昭和60年報告については過去の記事でも取り上げているので、ご確認ください(過去の記事はこちら)。

4 37号告示と昭和60年報告の整理
37号告示と昭和60年報告は、いずれについても直接の指揮命令関係の有無を問題にしているという点は共通しておりますが、その適用場面が異なります。
すなわち、37号告示は、注文事業主(会社)と請負事業主(会社)との間における請負契約が、労働者派遣に該当するか否かを判断するための基準であり、以下の図のⒶを問題にします。いわば、会社間における契約関係に適用される基準です。

他方、昭和60年報告は、注文事業主(会社)と請負事業主(個人)との間における請負契約が、雇用契約に該当するか否かを判断するための基準であり、以下の図のⒷを問題にします。いわば、会社と個人との間における契約関係に適用される基準です。

このように、37号告示と昭和60年報告とは適用される場面が異なりますので、どの契約関係が問題になっているのかを踏まえた上で、適切な基準に基づいて判断をしていただく必要があります。

【参考資料】
・37号告示(https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/h241218-01.pdf
・37号告示質疑応答集(https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/gigi_outou01.html
・昭和60年報告(https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/library/osaka-roudoukyoku/H23/23kantoku/roudousyasei.pdf

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