Q&A~精神不調の労働者を当然退職とすることの可否~

Q 当社のある従業員は、精神疾患を発症して休職に入っています。毎月、主治医の診断書を提出してもらっていたところ、休職期間中は「就労不可」との診断がなされていたのですが、休職期間満了直前に、「就労可」との診断書が提出されました。当社は、この従業員の復職を認めなければいけないのでしょうか。

 

A 本件従業員について、産業医又は会社指定医の診断を経て、その判断が「就労不可」ということであれば、休職期間満了日を以て当然退職として扱うことも可能です。ただ、法的リスクを軽減するために、退職合意が得られるように努めるべきです。

 

【解説】

労働者が精神障害を発症するなどにより健康を害している場合、通常の労務提供を行うことができず、これは解雇(普通解雇)事由に該当します。

ただ、一定の治療期間を設ければ健康状態が回復することもできるような場合にまで、直ちに解雇をしてしまうのは、労働者の生活基盤を奪ってしまうことを踏まえると、労働者への不利益が大きいといえます。労働者の不利益をも考慮して、解雇を一定の期間は猶予する制度が、休職制度です。

このように、休職制度は、解雇の猶予措置ですので、休職期間満了までに健康状態が回復しない場合には、休職期間満了を以て当然退職として扱うことが、法律上は可能です。

ただ、この健康状態が回復したか否かの判断が、特に精神不調を原因とする休職の場合は問題になりやすいです。

ご質問のように、休職期間満了直前に「就労可」とする主治医の診断書が提出されることは多く、この場合に、どのように対応すべきかという点は、使用者にとって悩ましい問題です。

このような場合、使用者としては、主治医の診断書に従わなければいけない法的義務はありませんので、別途、産業医診断を実施し、この産業医の判断を基に復職の可否を判断することが可能です。このような復職の手続きを明確にしておくためには、就業規則の復職のプロセスを明記しておくべきです。就業規則への明記は、実際に労働者対応をすることになる担当者(上司)にとっても、精神不調者への対応手順が分かるという点で、有益です。

ただ、注意をしていただきたいのは、就業規則において、復職するための条件として産業医等が「復職不可」という診断をしたことと明記されており、実際に産業医等が「復職不可」という判断をしたとしても、使用者の当然退職扱いが必ずしも有効と判断されるわけではないということです。

すなわち、主治医と産業医等の診断内容に齟齬が生じた場合には、いずれの診断内容が信用できるのかという点が争われ、仮に主治医の診断書がより信用できるとなれば、自然退職は無効と判断されてしまいます。この場合、退職日後の賃金(いわゆる、バックペイ)の支払をしなければならず、使用者にとって多大な負担となります。

産業医等の診断書の信用性が劣ると判断されないようにしておくために重要なポイントは、産業医等の診断を裏付ける根拠資料・根拠情報を確保しておく、ということです。

主治医と産業医との大きな違いは、主治医は定期的・継続的に労働者の健康状態を把握しているが、産業医は単発でした労働者の健康状態を把握していない、という点です。そこで、産業医についても、労働者が①休職に入った段階、②休職期間中、③休職期間満了の直前と、定期的かつ継続的に労、働者の健康状態を把握させておく、ということが肝要です。

 

なお、このように産業医に十分な判断材料を用意したとしても、自然退職の効力が争われてしまうこと自体が、使用者にとっては大きな負担ですので、このような紛争リスクを回避するためには、退職合意によって辞めてもらうように努めるべきです。この場合、精神不調を来たしている労働者に対する退職勧奨によって精神状態が悪化したと主張されないように、主治医や産業医に退職勧奨を行う上での進め方を相談した上で実施すべきです。

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