月250時間の時間外労働を行っていた調理師につき、大阪地裁が業務起因性を肯定(大阪労基署長(La Tortuga)事件)

大阪地方裁判所は、1ヶ月当たり平均して約250時間の時間外労働を行っていた調理師が、劇症型心筋炎を発症して死亡したという事案について、業務起因性を肯定し、大阪中央労基署長の不支給処分を取り消す旨の判断をしました(大阪地裁令和元年5月15日判決(大阪労基署長(La Tortuga)事件))。
本件のポイントは、労働者が、ウィルス感染症の急性心筋炎という、脳・心臓疾患の労災認定基準における対象疾病に該当しない疾病を発症して死亡したという事案において、業務起因性が肯定されたという点にあります。

労災認定がなされるためには、業務起因性(業務に内在する危険が現実化したといえること)が必要であり、この判断にあたっては、厚労省より、脳・心臓疾患の労災認定基準(平成13年12月12日基発1063号)と精神障害の労災認定基準(平成23年12月26日1226第1号)が出されており、これに基づいた判断がなされます。
脳・心臓疾患の労災認定基準においては、対象疾病が、脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止、解離性大動脈瘤とされており、ウィルス感染症の急性心筋炎は含まれていません。
本件において、労働者の遺族は、労災申請を行いましたが、大阪中央労働基準監督署長は業務起因性が認められないことを理由に労災と認定せず、その後の審査請求及び再審査請求も同様の判断がなされました。
本判決は、「ウイルスによる感染症が認定基準の対象疾病に含まれていないとの事情は、個別事案の特殊性、特に本件のように極端に長い時間外労働に従事したという事情を考慮してもなお、医学的見地によれば、ウイルスによる感染症の発症には業務起因性を肯定する余地がないことを意味するものと理解することはでき」ず、労災認定基準の対象疾病ではないことを以て業務起因性が否定されるものではないと判断しました。

労災認定基準の対象外疾病について業務起因性が肯定された一例として参考になりますので、ご紹介しました。
なお、本件の場合、いわゆる過労死基準を大幅に上回る1ヶ月当たり約250時間の時間外労働を行っていた事案であり、業務起因性が肯定されるべき事案であったという特殊性があることには留意が必要です。

【参考】
・脳・心臓疾患の労災認定基準
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-11.pdf
・精神障害の労災認定基準
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120215-01.pdf

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