令和2年5月15日、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」は、精神障害の労災認定基準の別表1「業務による心理的負荷評価表」(※1)の見直しに向けた報告書を公表しました(※2)。
これは、労働施策総合推進法(いわゆる、パワハラ防止法)が令和2年6月1日から施行され、同法によりパワーハラスメントが法律上定義され、その防止対策を義務付けられたこと(中小事業主は、令和4年3月31日までは努力義務)に伴い、現在の労災認定基準を修正・追加し、今後、労災の請求の容易化や審査の迅速化が図られることを期待したものです。
上記報告書のポイントは、以下の通りです。
■具体的出来事等への「パワーハラスメント」の追加
・「出来事の類型」として「パワーハラスメント」を追加 ・具体的出来事として「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」を追加 【強いストレスと評価される例】 上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合 ■具体的出来事の名称を「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正 ・具体的出来事「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の名称を「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正 ・パワーハラスメントに該当しない優越性のない同僚間の暴行や嫌がらせ、いじめ等を評価する項目として位置づける |
(「「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」報告書の概要」より抜粋)
もともと、精神障害の労災認定基準の別表1「業務による心理的負荷評価表」には、「出来事の類型」として「⑤対人関係」という項目があり、その項目の中でパワーハラスメントに該当し得るものが「具体的出来事」として記載されておりましたので、これまでも、パワーハラスメントを理由とした精神障害の発症は、労災認定がなされる可能性がありました。
そのため、今回の見直しによって、これまでの精神障害の労災認定基準自体が実質的に変更されるというものではないと思います。
むしろ、「パワーハラスメント」という用語を用い、かつ「具体的出来事」を整理・具体化することによって、これまで以上に、どのようなケースにおいてパワーハラスメントを理由とする精神障害の労災認定がなされるかを明確にしようとするものです。
労災認定に限りませんが、パワーハラスメントは、何がこれに該当するかを判断することが最も難しいです。上記のような労災認定基準の見直しは、労災申請をする側においても、労災認定をする側においても、分かりやすくなるという意味で極めて重要な意味を有しているものと考えます。
なお、同報告書では、「職務上の地位が上位の者のほか、同僚又は部下であっても、業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力が得られなければ業務の円滑な遂行を行うことが困難な場合」、「同僚又は部下からの集団による行為でこれに抵抗又は拒絶することが困難である場合」を含むことを明記しておく必要があるとの指摘があり、パワハラ防止法の指針(※3)を踏まえた内容となっていることが分かります。
このような流れの中で、今後、パワーハラスメントを理由とするトラブルが増加していくことが想定されますので、使用者として、社内規程や社内制度を正しく見直していくことが重要です。
※1 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120118a.pdf
※2 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11305.html
※3 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf