Q&A~死亡退職時における退職金の支払先(最高裁令和3年3月2日)~

Q. 当社の従業員が、不幸なことに交通事故により死亡しました。この従業員の妻より、退職金は妻の口座に支払って欲しいとの連絡がありました。当社の退職金規程では、死亡時退職金については、配偶者がいる場合には配偶者に支払う(配偶者がいない場合には、その子に支払う)となっておりましたので、妻からの連絡に従って支払を準備していました。そうしたところ、その従業員の成人している子から、両親は10年前から別居している状態であって、母親は別居時から他の男性と生活を共にしているので婚姻関係は破綻しているため、母親(従業員の妻)ではなく、自分に支払って欲しいとの連絡がありました。当社は、妻と子のどちらに支払いをしたら良いのでしょうか。

A. 成人の子の主張していることが事実であれば、婚姻関係は破綻しており、事実上の離婚状態にあるといえますので、従業員の妻は配偶者に当たらないとして、次順位の者である子に死亡時退職金を支払うべきであると考えます。ただ、妻と子の言い分が異なり、判断がつかない場合には、法務局に供託をせざるを得ないものと思います。

【解説】
1 死亡時退職金の支払先
⑴ 規定がある場合
労働者の死亡も退職事由に該当しますので、退職金規程において、このような場合にも退職金を支払う旨が規定されている場合があります。
この場合、死亡時退職金の支払先を退職金規程で定めていない場合には、その労働者が死亡と同時に退職金請求権を取得し、これを遺族が相続します(すなわち、退職金が相続財産になります)。

なお、労働者死亡時の月額賃金は、労働者に帰属する請求権であり、規定の有無にかかわらず、相続の対象(相続財産)になるという違いがあります。

⑵ 規定がない場合
他方で、死亡時退職金の支払先を退職金規程で定めている場合には、規程で定められた者がその権利を取得するのであって、相続財産には該当しないと考えられます。仮に、他の遺族から、死亡時退職金は相続財産に該当するので、遺産分割協議が行われるまで支払いは止めて欲しい、特定人に支払うことは止めて欲しいなどと言われたとしても、これに従う必要はありません。
退職金の支払先の規定方法については、労働者が業務災害により死亡した場合の遺族補償に関する労働基準法施行規則42条から45条の通りとしておくことが多いです。これは、当該規定が、労働者と生活を共にしていた遺族の生活を保障するという趣旨から受給権者を定めており、その趣旨は、退職金を相続ではなく特定の遺族固有の権利とする場合にも妥当するからです。

⑶ 規定の要否
①死亡時退職金を相続財産とするのか、②特定の遺族固有の権利とするのかは、会社の判断であり、いずれも可能です。
ただ、①相続財産とする場合は、特定の遺族から請求があったとしても、直ちに支払いをすることはできず、相続手続きや遺産分割協議の結果を踏まえた対応をする必要があります。
そのため、退職金規程において、死亡時退職金の支払先を明確にしておき、使用者が誰に支払うべきかを迷うことがないようにしておくことが適切であると考えます。

⑷ 婚姻関係が破綻していた場合の処理
退職金規程に死亡時退職金の支払先に関する定めがある場合、基本的にはこれに従って支払えば足りるものと考えられます。

もっとも、最新の裁判例において、中小企業退職金の支払先に関する判断ではありますが、最高裁は、「婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、 その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない場合、すなわち、事実上の離婚状態にある場合には、中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらない」と判断しました(最判令和3年3月2日)。
通達(昭和25年8月8日基収2149号)においても、業務上死亡した場合の遺族補償給付に関して、事実上の離婚状態にある場合には、遺族補償給付の受給権者には当たらないとされており、同様の考え方が示されています。

上記の最高裁判決では、配偶者について家庭裁判所により推定相続人排除の審判(これにより、配偶者は相続権を喪失している)がなされているという特殊性があります。
そのため、使用者側において、争いがないケースにおいてまで、配偶者であることを確認するだけでなく、婚姻関係が継続している状態であったか否かを実質的に判断することは不要であると考えます。
他方で、争いがあるケースであれば、婚姻関係の継続について事実確認を行うことは必要であるといえます。これを怠って、漫然と退職金支払いした場合、別の遺族からの退職金支払請求に対応しなければいけなくなるリスクがあります。

2 本件の対応
本件の場合、退職金規程にて、死亡時退職金の支払先を配偶者がいる場合には配偶者であると規定されていますので、原則的には、妻に支払いをすれば足りることになります。
他方で、成人している子からの主張の通り、10年前から別居状態が継続しており、別居時から他の男性と生活している状態であるとすると、事実上の離婚状態にあると考えられますので、妻に対して死亡時退職金を支払うべきではないと考えます。
ただ、成人の子が主張している内容が事実であるかどうかは分かりませんので、妻及び子の双方に事実確認を行うことは必須です。
このような事実確認を行っても、双方の言い分が全く異なり、事実上の離婚状態にあるかどうかの判断がつかないときは、やむを得ませんので、法務局に供託をせざるを得ないものと思います。

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