東京高裁、非正社員への退職金不支給は不合理と初の判断(メトロコマース事件)

本事件は、有期労働契約を締結し、東京メトロ駅構内の売店で販売業務に従事していた従業員及び元従業員らが、売店業務に従事をしている無期労働契約の労働者らとの間で、①本給及び資格手当、②住宅手当、③賞与、④退職金、⑤褒賞、並びに⑥早出残業手当に相違があることは労働契約法20条に違反すると主張して、当該相違に係る部分の損害賠償請求等を行った事案です。

原審である東京地裁は、上記①から⑥の相違のうち、上記⑥の早出残業手当の割増率の相違のみを労働契約法20条に違反し不合理であると判断し、その余の請求は棄却しました。

これに対し、東京高裁は、労働契約法20条違反の範囲を拡大し、②住宅手当、④退職金、⑤褒賞についても不合理であると判断しました(東京高判平成31年2月20日)。

本判決における特徴的なポイントの一つ目は、労働契約法20条違反の有無を判断する上での比較対象となる「期間の定めのない労働契約を締結している労働者」(いわゆる正社員)の選別につき、労働契約法20条違反を主張する労働者において特定して主張すべきであって、裁判所は、当該主張に沿って不合理か否かの判断をすれば足りる、とした点です。労働契約法20条違反を主張する労働者は、当然、自己に最も有利な比較対象を選別するはずですので、このような判断手法は、労働者側に有利といえます。

ただ、判決文を読んでみると、少なくとも本件について②住宅手当、④退職金、⑤褒賞についての相違が不合理であると判断されたのは、各労働条件の趣旨を基に相違を設けることに合理性があるか否かを評価した結果であって、比較対象者を限定的にとらえるか否かによって結論に影響が出たものとは考え難いように思います。

本判決における特徴的なポイントの二つ目は、退職金支給の相違について、有期労働契約を締結している労働者に対して退職金制度を設けないこと自体が一概に不合理とはいえないものの、有期労働契約は原則として更新されていること、定年が65歳と定められていること、事実として10年前後の長期にわたり勤務している者もいることなどを考慮して、少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金すら支給しないことは、労働契約法20条に違反して不合理である、と判断した点です。その上で、功労報償の性格を有する部分に係る退職金は、正社員と同一の基準に基づいて算出した額の少なくとも4分の1であるという、極めて踏み込んだ判断をしていますが、4分の1である理由については何も述べてはいません(おそらく、懲戒解雇等が行われた場合の退職金減額の幅に関する過去の裁判例を参考にしたものと推測されます。)。

平成30年6月に、ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件について最高裁判決が出されましたが、今後も、同一労働同一賃金に関する最高裁判決が出されることが予定されていますので、判例の動向に注目をしていきたいと思います。

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