性同一性障害の看護助手、性別変更を公表されたことを理由に、1200万円の損害賠償請求(大阪地裁)

勤務先の病院によって、性同一性障害を理由に性別を変えたことを同意なくして同僚に公表されたとして、大阪市の40代の女性看護助手が、病院を運営する医療法人に対して約1200万円の損害賠償請求を求め、大阪地裁に訴訟提起をしました(令和元年8月30日)。この女性看護助手は、性別適合手術を受け、2004年には戸籍上の性別も変更していたにもかかわらず、上司から、元男性であることを公表するように強く求められたとのことです。

LGBTについて、公にしていない性的指向や性同一性障害等の秘密を暴露する行動のことを、アウティングといいます。アウティングが問題になった事案としては、一橋大学の大学院生が、同性愛者であることを同級生によって暴露され、大学の建物から転落死した事案が思い出されます(この事案では、遺族が一橋大学に対して約8600万円の損害賠償請求をしましたが、東京地裁はこの請求を棄却しました。)。

使用者は労働者に対して安全配慮義務を負っているところ、職場内においてハラスメントが生じた場合、使用者が労働者に対して損害賠償責任として、一定額の金員の支払義務を負うことがあります。アウティングについても、セクシュアルハラスメントの一種として、使用者の責任が肯定される可能性があります(※1)。

本件の女性看護助手の方は、性別適合手術を受け、戸籍変更も認められておりますので、アウティングをしなければいけない必要性などなかったものと思われます。そのため、、使用者の責任が認められる可能性は極めて高いと考えます。

今後、LGBTの職場環境への配慮等について、使用者に求められることは増えていくものと思われます。使用者としては、時代を先行して、先手を打った対応をしていくことが必要です(社内において、LGBT研修を行っていくことも一案です。)。

 

※1  厚労省の「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成28年改正)では、「被害を受けた者…の性的指向又は性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、本指針の対象となるものである」とされ、セクシュアルハラスメントの対象者にLGBTも含まれることが明確化されています。また、厚労省のモデル就業規則においては、「性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。」とのLGBTへのハラスメント禁止に関する規定が、参考例として挙げられています。

性別変更「同意なく公表」 勤務先病院に賠償求め提訴(令和元年8月30日 共同通信)
https://this.kiji.is/540021646036763745

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