労働者の個人事業主化の労働法上の問題点~タニタの個人事業主制度は、何を批判されているのか?~

柔軟な働き方等をひとつの大きな柱とする働き方改革を踏まえ、健康機器メーカーのタニタは、平成29年に個人事業主制度(以下、「本制度」といいます。)を導入しました。本制度は、希望する労働者との間で、業務委託契約を締結することで(既存の雇用契約は終了させる)、雇用関係上の拘束(就業時間、就労日、就業場所、副業・兼業の制限など)から解放し、自由な働き方を実現することを目指したものです。

本制度を巡っては、労働関係法令を免れるための制度であって、法的に問題があるとの指摘がなされています。すなわち、労働者と個人事業主をどう区別するかという、いわゆる「労働者性」の問題は、労働法分野における典型的な論点です。

この区別基準については、昭和60年12月19日に、「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」(いわゆる「昭和60年報告」)が出されており、この基準の大枠は、以下の通りです。

1 「使用従属性」に関する判断基準
(1) 「指揮監督下の労働」に関する判断基準
① 仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
② 業務遂行上の指揮監督の有無
③ 拘束性の有無
④ 代替性の有無
(2) 報酬の労務対償性に関する判断基準(報酬額、計算方法等)
2 「労働者性」の判断を補強する要素
(1) 事業者性の有無
(2) 専属性の程度
(3) その他

「労働者性」の判断に関しては、裁判例も多く、様々な業態について争いが生じています。問題になりやすい例としては、運転手、在宅勤務者、建設業手間請け従事者、芸能関係者、証券会社の外務員などが挙げられます(※1)。

本制度につきましても、「労働者性」が争われた場合には、昭和60年報告に従って判断がされることになります。特に、本制度の場合、労働契約から業務委託契約に切り替え、業務内容は従前のままとし、報酬額は労働契約の際の給与・賞与をベースにしているとのことですので、単に契約形式を変更しただけで実態は従前通り労働契約であると主張されるリスクがあります。本制度は、希望者を対象とした制度のようですので、労使合意のもとに業務委託契約に切り替えが行われます。そのため、直ちにこのような主張がされるとは言い難いです。

ただ、何かトラブルが生じたり、関係が悪化したような場合には、この点が争われてしまう可能性が十分にあります。人事労務関係の怖いところは、当初、労使間で合意をしていた内容であったとしても、そのような合意だけでリスク回避はできないということです。「労働者性」についても、当時、労使合意があったということが認められたとしても、このことだけを理由に、「労働者性」が否定されることにはなりません。

もし、本制度と同様の制度の導入をお考えの方がいらっしゃいましたら、労働者と判断されてしまうリスクがあることを前提に、必要な対応ができているか、十分に検討していただくことをお勧めします。また、厚労省の「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」において、過去の議論の内容と今後の検討の在り方についての中間整理がなされていますので、こちらも参考にしていただければと思います(https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000523635.pdf)。

なお、最近の裁判例としては、フランチャイズ契約を締結してコンビニを経営していた店主が、労働者に当たるとして約11億円余りの損害賠償等の支払を求めた事案もあります(東京地判平成30年11月21日(セブン-イレブン・ジャパン事件)。)この事案では、裁判所は請求を棄却しましたが、そもそもフランチャイズ契約の締結当事者(フランチャイジー)から、このような請求がなされること自体、コンビニ側としては大変な驚きであったものと推測します。

※1 建設業手間請け従事者及び芸能関係者については、労働者性が問題になりやすいこともあり、労働基準法研究会労働契約等法制部会の報告書「建設業手間請け従事者及び芸能関係者に関する労働基準法の「労働者」の判断基準について」が、別途、出されています。

タニタ社長「社員の個人事業主化が本当の働き方改革だ」(令和元年7月18日 日経ビジネス)
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00005/071800034/

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