大幅なシフト削減が使用者のシフト決定権の濫用に当たるとして賃金請求権が認められた事案(有限会社シルバーハート事件(東京地裁令和2年11月25日))

1 事案の概要
介護事業等を運営する会社と本件労働者との間で締結されていた雇用契約書には、所定労働日や所定休日に関する記載はなく、手書きで「シフトによる。」と記載されているのみでした。本件労働者は、従来は、月に9日から15日はシフトに入っていたものの、ある時期からシフトを大幅に削減されため(1日もシフトに入れなかった月もある)、これが違法であるとして、賃金請求権等を主張しました。
主たる争点は、①勤務日や勤務時間に関する合意の有無・内容、②使用者によるシフト決定権の濫用の有無の2点です。

 

2 裁判所の判断
⑴ 争点①について
本件労働者は、勤務日は「週3日」とする旨の合意があったと主張しました。
これに対し、裁判所は、従前の勤務実態によると、月の出勤日数は9~16回であって必ずしも週3日のシフト勤務が組まれていたわけではないこと、介護事業所において本件労働者が従事できる役割は限定的であるために他の従業員の配置との兼ね合いを考慮する必要があり、1ヶ月の勤務日数を固定することが困難であること、を指摘し、本件労働者主張の合意は認められない、と判断しました。

 

⑵ 争点②について
裁判所は、シフト制勤務の労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入減に直結し、その不利益が著しいとして、合理的理由なくシフトを大幅に削減した場合にはシフト決定権の濫用に当たり違法であるとの考えを示しました。この場合には、労働者は、民法536条2項に基づき、不合理に削減されたシフト分の賃金請求権を行使できるとしています。
本事案については、過去の勤務実績を基に、少なくとも、1日しかシフトに入れていない月と一切シフトに入れていない月は、シフト決定権限の濫用に当たるものと判断しました。その上で、直近3ヶ月の賃金の平均額を本来得られたはずであるとして、実際の支払額との差額分の賃金請求権(合計13万0234円)を認容しました。

 

3 コメント
シフト制勤務者の場合、雇用契約書等の勤務日について、㋐「シフトで定める」としか記載されていない場合、㋑「週3日以内として、具体的な日はシフトで定める」のように勤務日数の目安が定められているだけの場合、㋒「最低週3日として、シフトで定める」のように最低出勤日数が定められている場合などがあります。
㋐㋑の場合は、最低出勤日数の定めがないため、原則としては、月の出勤日数をゼロとしても契約違反ではないといえます。
しかしながら、この原則を貫いてしまうと、シフト制勤務者の場合、シフト日数と収入額は直結するため、使用者が、恣意的に労働者の収入をゼロにすることも可能であることになってしまいます。そこで、裁判所は、使用者のシフト決定権が認められるとしても、権利濫用に当たる場合には許されないとして、会社の裁量に一定の制限を加えることで労働者保護を図りました。
労働者としては、過去の勤務実績の平均分は収入として見込めると期待を持つことは合理的であって、これを保護する必要性は高いといえますし、また、会社としても、一定日数は出勤をしてもらう前提で雇用をしていますので、一定額の支出も負担して然るべきものといえ、裁判所の判断は合理的なものであると考えます。

本事案におけるシフト削減前に、本件労働者の勤務態度に関して注意指導がなされ、その後に配置転換が行われているという事情があります。そのため、シフト削減は、本件労働者を退職に追い込むための方策として用いられたものと推測され、この点も権利濫用の判断にあたっては考慮された可能性があるものと思われます(このような考え方は、配置転換の有効性で用いられています。)。
シフト制勤務は、飲食店やコンビニなどの24時間営業の店舗などでよく用いられている勤務形態ですが、新型コロナウイルス感染症によって、これらの店舗では休業や時短営業を余儀なくされています。このような中で、シフト制勤務者のシフトを削減することが行われている実情があります。シフト制であれば、シフトに入れなければ、その日の休業手当の支払も免れることができ、会社の支出を抑えることができるからです。
しかしながら、本事案のように、シフト制勤務者であり、最低勤務日数が保障されていないからといって、使用者が、恣意的にシフトを大幅に削減することができるわけではなく、削減内容によって、労働者からの賃金請求権が認められる可能性があるという点には注意が必要です。

 

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