東京高裁、バス運転手の仮眠時間について、制服の上着を脱ぐことができていたことなどを踏まえ、労働時間性を否定(K社事件)

東京高裁は、バス運転手の仮眠時間の労働時間性が争われた事案で、仮眠時間は使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することはできないとして、労働時間性を否定しました(東京高判平成30年8月29日(K社事件))。

バスの運転手の労働時間性が争われる場合、①出勤してから出庫するまでの時間帯の労働時間性、②帰庫してから退勤するまでの時間帯の労働時間性、③仮眠時間や待機時間の労働時間性が争点になることが多いです。本事件でも、これらが争点になっていますが、本事件の特徴は、③の運転手の仮眠時間の労働時間性が否定されたことです。

驚かれる方もいるかと思いますが、仮眠時間や待機時間のように、労働者が実作業に従事していない時間(いわゆる、不活動時間)であっても、労働時間と判断されることがあります。裁判例においても、警備員の仮眠時間の労働時間性が争いになった事案で、最高裁は、「不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべき」であり、「当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である」と判断しています(最判平成12年2月28日(大星ビル管理事件))。このように、不活動時間であるからといって、そのことだけを理由に労働時間性が否定されるわけではないということに注意が必要です。

裁判実務上の感覚としては、運転手の不活動時間については、使用者に厳しい判断、すなわち労働時間性が肯定されることが多いように思います。例えば、トラック運転手の裁判例ですが、配送先における待機時間の労働時間性が肯定されており(横浜地相模原支判平成26年4月24日(田口運送事件))、使用者に厳しい判断がされています。

本事件では、運転手の仮眠時間の労働時間性が否定されておりますので、使用者に有利な判断をした珍しい事例といえます。なお、本事件の第一審において労働時間性を否定するにあたって認定された事情は、以下のとおりです。

・交代運転手は、乗車している間は、仮眠等の休憩をとるように指導されていたこと
・交代運転手は、運転席の真後ろにある座席に一人で着席していたこと(二人用の座席でも、一人で着席することができたこと)
・交代運転手は、制服の上着を脱ぐことが許容されていたこと
・交代運転手が、乗客の要望や苦情に対応することや運転手の運転を補助することはなかったこと
・交代運転手が所持していた携帯電話に会社から着信があることはほとんどなかったこと

上記の判断事情のうち、制服の上着を抜くことが許容されていた点を考慮していることは注目に値します。東京高裁も、「被控訴人は制服の上着を脱ぐことを許容して、可能な限り控訴人らが被控訴人の指揮命令下から解放されるように配慮していたものであ」り、「交代運転手の休憩する場所がバス車内に限られ、制服の着用を義務付けられていたことをもって、労働契約上の役務の提供が義務付けられていたということはできない」と判断しています。同種の事情を考慮した裁判例としては、警備員の仮眠時間の労働時間性が問題になった事案で、仮眠時間中は寝間着に着替えることができなかったことを労働時間性肯定の考慮事情にした例があります(千葉地判平成29年5月17日(イオンディライトセキュリティ事件))。

労働時間性の判断にあたっては、裁判所は、きめ細かな事実認定をするということが分かっていただけるかと思います。使用者、特にバス会社においては、どのような事情が労働時間性肯定の事情であり、どのような事情が労働時間性否定の事情であるのかの参考になると思いますので、こちらを踏まえ、今後の労働時間管理の見直しをしていただければと思います。

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