最高裁、トラック運転手に対する丸刈行為等のパワハラが争われた件につき、運送会社の上告を退け、運送会社に約1500万円の損害賠償責任を認める。

運送会社のトラック運転手が、帰社が遅れたことを理由に丸刈りにされ、洗車用の高圧洗浄機を至近距離から噴射され、洗車用ブラシで体を洗われるなどされたことがパワハラに該当すると主張して、会社及び代表取締役等に対して損害賠償請求等をしていた事案で、最高裁判所は、令和1年9月17日、会社側の上告を退けました。原審(福岡高判平成31年3月26日)は、会社等に対して約1500万円の支払が命じており、この判決が確定しました。

本事件において問題になった行為(丸刈り、高圧洗浄機の噴射等)からすれば、これがパワーハラスメントに該当して損害賠償請求が認められることは当然であり、原審においても、「原告に対する暴行及び人格権を侵害する行為であることは明らか」であると述べられています。そればかりか、このような問題になった行為について、その様子を写した写真がブログに掲載されていたような事情もあり、人格権侵害の程度は極めて強いものといえます。

本事件では、この他に、未払残業代請求や付加金請求も行われており、裁判所により、以下の金額の支払が命じられています。
・未払残業代 937万0829円
・付加金   494万8856円

このうち、「付加金」という言葉について、聞きなれない方も多いかと思います。
付加金とは、解雇予告手当、休業手当、法定時間外・深夜・法定休日割増賃金、年次有給休暇を取得した場合の賃金を支払わなかった使用者に対する制裁として、裁判所が支払を命じる金員をいいます(労基法114条)。端的に言えば、『労基法違反に対する制裁金』のことです。

未払残業代請求の場合は、必ず、この付加金が請求され、例えば、未払残業代が200万円と判断された場合、付加金も同額の支払が命じられ、使用者は、合計で400万円もの金銭支払義務を負うことになり得ます。

この付加金制度については、第一審で支払が命じられても、これを回避する方法があります。すなわち、付加金は未払残業代があることを前提にして支払が命じられるものですので、未払残業代の支払を済ませてしまえば、付加金を命じることはできません。そのため、第一審の判決後に、控訴をし、控訴審の口頭弁論終結時までに未払残業代の支払を済ませておくことで、控訴審の判決において、付加金の支払を免れることができます。

本事件においても、この方法を用いれば、上記の付加金494万8856円の支払は免れることができたものといえます(本事件でこの方法を用いなかったのは、訴訟戦略上の意図や使用者の感情などが理由ではないかと推測します。)。

未払残業代請求訴訟においては、このような付加金制度の内容を踏まえた上で、方針の決定をされるべきです。

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