Q&A~未払い残業代請求を受けた場合、タイムカードの開示は必要か?~

Q.先日、当社の元従業員の代理人と名乗る弁護士から、内容証明郵便を受け取りました。それによれば、当社の元従業員について未払残業代が発生している、正確な計算を行うためにタイムカード等の労働時間の管理に関する資料の開示を求めるとのことです。当社は、タイムカードの開示に応じなければいけないのでしょうか。

 

A.使用者としては、タイムカード等の労働時間の管理に関する資料の開示を行わざるを得ません。仮に、使用者が正当な理由なく開示をしない場合、使用者に不法行為に基づく損害賠償責任が認められることもあります。

 

【解説】

弁護士名義で残業代請求が行われる場合、電子内容証明で通知書が使用者宛てに送付され、その通知書に、未払残業代請求を行うこと、及び正確な未払残業代の計算のために資料(就業規則、36協定、賃金台帳、タイムカード、日報等)の開示を求めることが記載されていることが通常です。

このような通知書を受領した場合、使用者によっては、タイムカードの開示に抵抗を示す方もいらっしゃいます。特に、タイムカードの設置・運用はしているものの、使用者として管理はしておらず、労働者の実労働時間とタイムカードとの間に差異が生じているケースの場合、タイムカードで労働時間が認定されてしまうと、使用者が過大な残業代の支払義務を負うことになるため、開示はしたくないとの相談を受けることがあります。

しかしながら、タイムカード等の労働時間管理の資料については、使用者が任意開示を拒んだとしても、労働者側は、訴訟提起を行って文書提出命令という制度を利用することができるため、最終的には開示せざるを得なくなります。

また、未払残業代請求については、訴訟提起がなされる前に代理人間の交渉で和解がまとまるケースも多いのですが、タイムカードの開示を使用者が拒んでいる場合には、労働者側が請求金額を確定できないために和解が決裂してしまったり、労働者側の譲歩や理解が得られずに和解が決裂してしまう可能性が高いです。この場合、訴訟提起がなされ、紛争が泥沼化するリスクがあります。

さらに、裁判例上、「使用者は、労基法の規制を受ける労働契約の付随義務として、信義則上、労働者にタイムカード等の打刻を適正に行わせる義務を負っているだけでなく、労働者からタイムカード等の開示を求められた場合には、その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り、保存しているタイムカード等を開示すべき義務を負うものと解すベき」と判断したものがあり(大阪地判平成22年7月15日(医療法人大生会事件))、特段の事情なくタイムカードの開示を拒絶する場合は使用者が不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性もあります。

したがって、労働者側からタイムカード等の労働時間の管理に関する資料の開示を求められた場合、使用者としては、開示に応じざるを得ないと考えます。

もっとも、交渉のテクニックとして、適宜のタイミングで必要な範囲に絞ったタイムカード等の開示をするということも考えられるところですので、もし残業代請求を受けているということであれば、早急に専門家へご相談をされることをお勧めします。

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